マテルのジェンダーニュートラルなドールCREATABLE WORLDが発売されたことを取り上げたTIMEの記事。
https://time.com/5684822/mattel-gender-neutral-doll/
日本でも一部ウェブニュースになっていましたが、表面だけをなぞるような記事ばかりな気がしたので
自分が読むついでに翻訳をしました。かなり時間がかかってしまうので前半と後半に分けます。
読みやすくするために、改行・画像の挿入は元記事に準拠していません。
素人なので翻訳が間違っている場合や誤字脱字、単語も訳が統一されていないかもしれません。
他、ジェンダーに関する部分は調べながら訳していますが解釈が不適当な部分もあるかもしれません。
その際は優しくご指摘いただけると助かります。
2020.06.06 実物を手に入れたのでレビューページつくりました。
マテルのジェンダーニュートラルなドール CREATABLE WORLD 実物レビュー
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子供が箱を開ける。彼は喜びで飛び跳ね歓声を上げる。それは、新しい玩具のテストを行うマテルの本社のホールではよくあることである。しかしとりわけ、この人形という玩具では男の子を人形遊びのテストグループに参加させることは親にとって珍しいことである。ちょうどシーアがしたように、すぐに人形遊びをはじめるということは男の子にとってはまだ珍しいことなのだ。
自らをジェンダーフルイド(性別が流動的)と考える8歳の彼は、お気に入りの色がある週は黒、次の週にはピンクになる。シーアはたまに彼の年下の妹と家で人形遊びをするが、しかしそれらは「ガーリー、プリンセス風のもの」だと軽蔑的に彼は言う。この(新しい)人形は思春期前のボディに子供っぽい顔のつくり、ウェーブし垂れ下がるブリーチされたブロンドの前髪が、まさに彼のようである。
「この髪はまさに自分みたい」シーアは言い、人形と並べて頭を揺らしている。それから彼は玩具テストルームの遊び仲間―ジャセという7歳の少女―の方を向き、「女の子の髪をつけてもいい?」と尋ねる。シーアはブロンドのロングヘアを人形の頭に置くと、それはもはや彼のためのアバターではなく妹のための人形になるのだ。
男の子女の子、片方もしくは両方になることができるこの人形をマテルは世界で初のジェンダーニュートラル( 男女の性差のいずれにも偏らない考え方)な人形と呼ぶ。9月25日に発売されるこの人形は、 伝統時にタブーと思われてきた人形で遊ぶ世界の半数の子供たち(男の子たち)を再定義するのである。
注意深く手を入れられた顔立ちは、明白なジェンダーが表れない:唇は膨らみすぎず、睫毛は長すぎずふさふさしていない、顎の幅は広すぎない。
バービーのような大きな胸はなく、ケンのような肩もない。クリエタブル・ワールド・シリーズのどの人形もスレンダーなショートヘアの7歳のような見た目だが、ウィッグでロングヘアに出来、光沢のあるロックや流行に敏感などんな子供たちにもふさわしい持ち衣装がある。フードパーカー、心地よい緑と黄色のグラフィックTシャツ、それにチュチュや迷彩パンツ。
マテルがこの$29.99のシリーズの商品の特徴を一番にプロモーションとしてスポットを当てているのが、様々な代名詞を含めているところである― him, her, them, xem ―そしてそのスローガンは「ドールシリーズはラベル付けしないようデザインされ続け、どんな人も招き入れる」
これはトランスジェンダー(体と性自認が一致しない人)やノンバイナリ(女性でも男性でもなくどちらにも分類されない)のアイデンティティへの同意である。
この企業はたとえ国が人口の一部に実在する人々を疎外していたとしても、この国の行く先に賭けているのである。Pew Researchにより行われた2017年の調査では、 76%の親が女の子にむけて伝統的に男の子向けとされるトイや活動を提供しているが、男の子には64%しか女の子向けのトイや活動は推奨されていなかった。
何年もの間、ミレニアル世代の親はトイ・ストアの「ピンクの通路」と「ブルーの通路」に反対し、 性別に中立なセクションを支持してきた。多くの場合、女の子でも科学や数学への興味を育むであろうビルディングブロックや化学キットは 通常、男の子のおもちゃとして分類され名づけられている。主要なトイ・セラー達は、ミレニアル世代の比類のないトレンド設定能力と購買力のために耳を傾けている。Target (大手スーパーマーケット)は2015年に性別固有のセクションを削除した。同じ年、ディズニーは子供たちの衣装から「男の子」と「女の子」のラベルを廃止し、女の子がキャプテンアメリカを、男の子がベルを着る事を歓迎した。昨年、マテルは「男の子」と「女の子」のトイ部門を廃止し、性別を問わない、 例えば人形や自動車といったセクションを採用した。
しかしこのクリエイタブル・ワールドドールは全く別のものである。飛行機模型や火山模型にはない顔が人形にはある。だから私たちは自分のセルフイメージや願望を投影することができるのだ。
マテルはこのドールを7つの州にわたり、250の子供の玩具について干渉しない家族にテストした。そこにはトランスジェンダー、ノンバイナリー、ジェンダー・フルイド、メディアにほぼ反映されない性自認の子供たち15人を含んでいる。
「2人のジェンダーに創造的な子供が、クリスマスを恐れていると話しました。なぜならばクリスマスツリーの下に何を見つけるか知っているから。それは自分たちのために作られたものではないからです。」マテルのコンシューマー・インサイト(消費者の行動の根底の本音を調査する)担当のトップのモニカ・ドレーガーは語る。「これはツリーの下で見つけることができる初めての彼らのための人形です。なぜならこの人形はみんなのためのものだからです。」
ジェンダー・ノンバイナリの若者の人口は増え続けているとされている。10歳未満の子供の大規模な調査は行われていないが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のウィリアムズ研究所による最近の研究では、カリフォルニア州の10代の27%が性別不適合と特定していることが判明した。
そして2018年のPewの調査で、theyとthemのようなジェンダー・ニュートラル(性中立の)代名詞を使用する人を個人的に知っていると答えたのが、 X世代 (1965年から1980年に生まれた世代)のわずか16%に対し、 Z世代 (1995年から2015年に生まれた世代) は35%だった。
このパターンは2010年以降生まれのアルファ世代でも継続すると予想されている。これらの子供たちは 未開拓の人口統計であり、 人形と遊ぶことを望んでいる少年や「おてんば娘」とされ、ファッション人形遊びに惹かれない少女を含んでいる。マテルは現在、80億ドルの人形業界で19%の市場シェアを獲得してる。さらに1%獲得するだけで、その収益は8000万ドルになるのだ。
マテルはジェンダーに創造的な子供たちにより、クリエイティブ・ワールドの可能性がさらに広がると考えている。アルファ世代の子供たちはたとえ性自認であってもラベル付けや命令にはいら立つ。彼らは、おもちゃが誰のために設計されたのか、どのように遊ぶのかを教えられたがらなかった。
彼らは名前のない人形に喜び、彼らの気のままに変化させ適応させることができた。
しかし、購入を決定するのは親であり、この人形に対して中立的な反応をする大人はいない。テストグループでは、数人の親がおもちゃの「ジェンダーに中立な」ブランディングが政治的課題を押し上げたと感じ、一部の大人は、息子が人形で常に遊ぶという考えに反対した。
マテルの社長であるリチャード・ディクソンは、人形は声明として意図されたものではないと主張している。「私たちは政治の仕事をしているわけではありません」と彼は言う。「そして、私たちは親が子供をどのように育てるかについての決定を尊重します。私たちの仕事は想像力を刺激することです。 私たちの玩具は、究極的には文化的な会話のキャンバスです。しかし、それはあなたの会話であり、私たちの会話ではありません。 私たちの意見ではなく、あなたの意見なのです。」
しかし顧客に空白のキャンバスを提供することでさえ、ジェンダーに中立なトイレが依然として抗議を起こされる国では政治的だと見なされるだろう。マテルは、政治的に分裂を起こすような他の企業への仲間入りを選択したのだ。
ちょうど過去2年間で、Colin Kaepernickがレイシズムに抗議し国歌斉唱中に跪いたことでNFLに解雇された後、Nikeは彼を迎えてキャンペーンを行った。Airbnbは、トランプ大統領の入国禁止令に直面した難民に無料の住宅を提供した。Dick’s Sporting Goodsはパークランドでの銃撃の後、攻撃用の武器の販売を停止した。これらの企業はすべて、文化戦争で自らの主張に賭け、最終的に販売が急増したことを報告している。
これらの例に迫られたとき、ディクソンは革新者として認知されたい場合において中立を保つことは選択肢にないと認めている。「私が思うには今時の会社でいるには、社会的な正義と商業的な感覚を組み合わせなければならない。そのバランスは絶妙なものです。」とディクソンは語る。「誰もがあなたに感謝したり、同意したりするわけではありません。」
実際マテルの研究員によると、異議を唱えるブーマー、X世代、さらにはミレニアル世代は肯定的な兆候である可能性があるという。「人形を見たすべての親が『これが私たちが待ち望んでいたものだ』と言ったら、私たちは仕事をしていないでしょう」とドレガーは語る。「つまり、そうであるなら、既にそれは市場に存在しているはずということです。つまり私たちは、おそらく子供たちより少し遅れた場所におり、親より少し前にいる。それがまさに私たちが存在する必要がある場所なのです。」
マテルの本社に足を踏み入れると、ジェンダーに中立な遊びの世界を想像するのは難しい。巨大な壁画には、同社の最も有名な玩具のいくつかが描かれている。白黒の水着とヒールのふっくらとしたクラシックバージョンのバービーが目を細めて訪問者を見下ろしている。近くの別の写真では、 スーパーマンスタイルで 小さな男の子が胸を膨らませてシャツを裂き、「Strength and Excellence」―強さと卓越性―と書かれた赤いマテルのロゴを見せている。幼児でさえこれらの写真を見て、女性と男性がどのように期待されているかというメッセージを理解することができる。
しかし、訪問者がいちど通路を通り抜けてデザイナー達の個室に入ると、マテル内の進化は明らかである。
インスピレーションボードは、スカートの男の子とアスレチックにいる女の子の写真で覆われている。最も印象的な画像は、十代の人気スターのマッシュアップである。
リバーデイルでベロニカとジャグヘッドを演じるカミラ・メンデスとコール・スプラウスの特徴が組み合わさり1つの両性具有的な顔を作り、ストレンジャーシングスのメインキャラクターを演じるミリー・ボビー・ブラウンとフィン・ウォルフハルトは、垂れ下がった前髪で頬骨の張ったジェンダーレスな一人の人間にブレンドされている。
過去10年間で、玩具の会社は性別の壁を取り壊し始めている。2012年に立ち上げられたGoldieBloxのような小企業は、女の子を対象としたエンジニアリング・トイを製造している。そして大企業であるレゴは同じ年に女性向けラインである、レゴフレンズを生み出した。それらは女の子に向けたSTEM教育( 科学や数学分野に重点をおいた教育 )用の玩具をより主流にしたのである。小さな独立した玩具メーカーは、紫とピンクの代わりに緑と黄色にペイントされたドールハウス、もしくは花や蝶で飾られるかわりに全てが白い調理器具セットでそれをさらに推進させた。
おそらくそれは驚くべきことだが、マテルは誰かに打ち負かされてジェンダーニュートラルの人形を生み出した訳ではない。グーグルでそのような人形を検索すると現れるのは、赤ちゃんの人形や、この地上を歩いているどんな人間とも似つかない、奇妙な姿をしたぬいぐるみのクリーチャーである。
過去二年間マテルが創り出したもので、 クリエイティブワールドドールに近いものは 存在しない。
科学者たちは、男の子は単にトラックで遊ぶことを望んで生まれ、女の子は人形を育てることを望んでいるという考えの正体を暴いた。
子供の玩具におけるジェンダー類型(Gender Typing of Children’s Toys)の共著者である心理学者リサ・ディネラとエリカ・ワイズグラムによる研究では、早期の遊びの経験が発達に与える影響を発見した。
車輪付きのおもちゃが白く塗られているとき―「男の子のおもちゃ」なのか「女の子のおもちゃ」なのかを示すすべての色を無くしたとき―女の子と男の子は車輪付きの玩具で同じくらい頻繁に遊ぶことを選んだのだ。
ディネラは玩具から性別を示す要素を取り除くことで、男の子と女の子が一緒に遊ぶことを促進し、大人として男性と女性が職場や家庭で互いに関わるための重要な練習になると指摘している。
彼女は、ミレニアル世代(1981年~1996年生まれの世代)が(男女の)育児の責任を分かち合うことを推し進めており、その戦いは子供のプレイルームから始めるべきだと付け加えている。
「もし男の子が、女の子のように人形遊びで親としての技術を学ぶように奨励された場合、より養育的で共感的な父親になるでしょう。」と彼女は語る。
それでも、性別を問わず、すべての子供たちにアピールする人形を作成することにはリスクが伴う。「玩具における社会的なジェンダーの立ち地位の境界線を自ら進んで超えようとする子供もいますが、多くの場合これらの境界を超えるにはコストがかかります。」とディネラは語る。「そのコストは、女の子よりも男の子の方が大きいようです。」
こうした社会的影響のいくつかは、親の態度に起因することは間違いない。ロサンゼルスでは、クリエイティブワールド(ドール)の初期テストグループ、7人の親の大多数が人形が「政治的だ」と不満を言っていた。ある母親は言った。
「息子が人形で遊ぶべきだとは思いません。」と彼女は続けた。 「トラックを持つ女の子とバービーを持つ男の子との間には違いがあり、バービーを持つ少年は no-no―やってはいけないこと―です。」
グループで唯一の父親は肩をすくめた。「わかりません」と彼は言った。 「娘は、ドレスを着ている男の子と友達です。 私は以前はそのようなことに反対していましたが、今はそれはOKです。 」
それらのテストグループのビデオでは、多くの親が人形を説明するために言葉を探った。性別(人の識別方法)とセクシュアリティ(人が誰に惹きつけられるか)の混同、ジェンダーニュートラル―中立的性別(性別がない人)とトランス(性別から性別に移行した人)の混同、そして、ただ男の子が人形で遊ぶという考えについて心配している。ロサンゼルスの2人目の母親は、人形を見る前に「トランスジェンダー? それについてどうやって子供と会話をするの?」と尋ねた。その玩具を調べ、他の親と性別の流動性について話し合った後、「それはやりすぎ。 1970年に戻れないの?」と発言した。
このテストの後、ドレーガーは親の反応を分析した。「大人は説明と定義に縛られます。」と彼女は言う。「彼らはセクシュアリティの見解についてもすぐにそうなります。それは彼らを自分たち自身でさらに不安にさせます。子供は、はるかに直感的なのです。」
後半に続く